第38回 社会福祉士国家試験を受けてみた①  -はじめまして、スーさん-

2026年2月1日。
社会福祉士国家試験を受けた日。

私は、開始5分で静かに絶望していた。

この日のために社会福祉主事任用を取り、2年働き、社会福祉士短期養成コースを卒業した。
正直、ここまで来るのは簡単じゃなかった。……長かった。本当に。

19370円ってちょっと高すぎない?
わずかな怒りを覚えつつ、受験代金を支払い、こんだけ払ったんだから絶対に受かってやると気合を入れて挑んだ受験勉強。

教科書を読み切ることはできなかったけど、過去問題と模擬問題をメインに、嫌になるまで勉強した。

「もう勉強したくない。」
「来年もこんな思いをしたくない。」
「眠い。」
「遊びたい。」
「終わったら好きなだけ寿司を食べる。」

そう自分を追い込み、東横インに前泊して挑んだ受験当日。
緊張で寝れず、体調も最悪であったが、何とか受験会場にたどり着く。

指定の時間30分前には到着したが、会場はすでに沢山の人でごった返していた。

こんなにも沢山福祉職や福祉を志す学生がいる…。
絶滅危惧種である貴重な人材がここにはあふれている。
いっそのこと、ひとり残らず受かればいいのに。

そんな思いを抱えながら、自分の番号の該当ブロックを探し、いざ着席。

トイレは駅で済ませてきたし、ギリギリになると慌ててしまうからいいや。
あえて会場内のトイレには行かずに余裕をもって準備に取り掛かる。
これが大人。大人の余裕ってやつ。

インデックスシールで検索しやすくした参考書と模擬問題集を机の上に出す。
躓いたところを眺める。
このインデックスシール、記入して貼るのは結構苦労したが、このアイテムを用いることで、一気に「勉強している人」みたいになる。

しかし、前日の寝不足とオーバーヒートした頭には全く知識が入らない。
勉強をしている…ふりをしている人になってしまった自分を自覚する。
悲しいかな、どうせ頭に入らない。

周りを見渡せば、賢そうな若者や、いかにも仕事ができそうな方々が参考書を広げている。
さすが。

「…ん?おや?」
私の視界に、携帯ゲームをしている若者が目に入った。

「…ええ?」

皆が必死こいて勉強しているなかで、携帯ゲームに勤しんでいる。
まるで「今更焦って勉強なんかしませんよ。だって私は、もう頭の中に知識は詰め込んできましたから」と言っているかのよう。

私は頭に入らないくせに参考書を眺めている自分が情けなくなった。
戦う前から敗北を感じた。

うん、寝よう。
潔く寝て、対戦の時を待とう。
ここからは自分との戦いだ。
こんなことで心を乱してはいけない。

寝ようと決めたところで寝れはしないのだが、私は教科書を置き、時間まで机に頭を伏せることにした。

そうこうしている間に、テスト開始の時間がやってきた。
説明から開始まで40分ほどの時間を割くのは不満だ。
なんでこんなに待たなきゃいけないのー?

いざ対戦と、試験問題のページをめくったのだが…。

「…ん?」
会場に戸惑いの空気が流れた気がした。

えっと…スーさん?
初めまして…。

利き手交換って作業療法士さんの領域なんですね。知らなかった…。
エリスロポエチンって何?
リッチモンドさん?岡村重雄さん?三浦文夫さん?竹内愛二さーん?
え?皆様本日はお越しになっていない?
おかしいな…。

ロールシャッハテストやKJ法について説明しましょうか?
聞かれてないけど。

…そう、私は開始5分にて確信したのである。
ヤマを、外してしまったと…。

「あれっ、私、初代ガンダムを観ていたはずなのに、ガンダムWでも観てた?」
かろうじてシャアっぽい人がいるけど。
なじみの人もいないわけじゃないんだけど、なんかスピンオフ作品でも観てるのかな?

ドラゴンボールからドラゴンボールZになるくらいの変化なら。
セーラームーンがセーラームーンRになるくらいの変化ならわかるのだが、これは次元が違う。想定の範囲を超えている。

容赦なく心を揺さぶってくる問題用紙を前にしながら、とりあえずわからないところは印をつけ、適当と思われる回答数字を塗りつぶして先に進む。

短期養成講座の事務員の方が祈願してくれた縁起のいい鉛筆を握りしめ、多分この困惑は私だけじゃない、皆同じなはず、と気を取り直す。

沢山の同士がいるはずの試験会場は、一気に孤独な戦場と化す。
くじけそうな心を見ないふりをしながら、前へ前へと進んでいかなければならない。

あっという間に時間は経過し、退出可能時間になると、ぽつぽつと人が会場外へ出ていった。

「おやっ?皆、余裕じゃん。ホントに?」
私、全然出れる気配も勇気もないんですけど。
皆もしかして天才なのかな。
あたしうっかり天才の中に紛れ込んじゃったかな?

勉強したはずの知識が出てこない。
見覚えのある単語すら、テスト問題に結びつかない。

スラムダンクの安西先生の「諦めたらそこで試合終了」という言葉を胸に、そうだこれは個人戦であり自分との闘いであると思いなおす。

往生際悪く最後まで問題を見直し、終了の合図とともに鉛筆を置いた。

昼休みは好物のヤマザキパンのソフトミルクフランスパンを頬張った。
このソフトフランスがなんとも言えない。
このパンは私の気持ちを充分に癒してくれた。
やはりパンはハード系が美味い。
濃厚ミルククリームと、このソフトフランスの相性が抜群なのだ。
このパンの存在に心から感謝したい。

ヤマザキパンのソフトミルクフランスパンに励まされながら、午後の専門科目も走り切り、疲労感と共に家路につく。


もう全て終わった。あとは自己採点だ。

この時はまだ、自己採点であんなにも心乱されるとは想像もしていなかった。

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